第1章

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 当然国民は熱狂した。三つ子の姉たちは、幼いころから国の式典や外交関係の行事があるたび、呼ばれるようになった。  エリザベートが産まれたのはそのあとだった。彼女たちの下だったため、三つ子の姉ほどは目立たなかった。  それでもしばらくは末っ子としてかわいがられた。しかし五歳のときに妹が産まれてしまい、末っ子という地位すらゆずり渡すことになった。  こうしてエリザベートは影の薄い姫になってしまった。  外見も美人姫として有名な二人の姉、三つ子の姉と比べても平凡であった。茶色の髪に茶色の瞳、どこにでもいそうな平凡な少女にしか見えない。  最後に追い打ちをかけるように双子の弟が産まれた。  二つ上の十七歳で、お見合いの話が殺到している三つ子の姉と、もうすぐ五歳になる愛くるしい双子の弟にはさまれ、エリザベートは歯ぎしりをする日々をすごしていた。  そんなとき、エリザベートが脚光を浴びる機会があった。  貿易の盛んな東の大国オーステン国から、見合いの話がきたのだ。エリザベートは小躍りして喜んだものだ。  相手は第四王子のアレクサンドル王子。まだ直接王子と会ってはいないが、肖像画で見た王子はとても美形だった。  心も姿も美しいと評判のよくできた王子らしい。  エリザベートはなにも文句を言うつもりはない。  王族の結婚なので、もちろん恋愛ではなく、両国の友好関係を結ぶためのものであったが、幼いころから、王族は国のために親が決めた相手と結婚するものだという教育を受けて育ったエリザベートは楽しみにしていた。  多少がさつな性格に育ったものの、結婚とはそういうものだと割りきっている。  これでやっと。これで、全国民から注目される中、結婚式を挙げることができる!  結婚式自体は数年先の話だというのに、エリザベートの心はウキウキしていた。  花も鳥も雲でさえもすべてが自分に微笑みかけているようだ。  ウェディングドレスのデザインも今から決めておくことになった。  レースをたくさん使うが、上品な感じに仕上げた。生花を髪に飾ろうとエリザベートは考えていた。鐘を鳴らし、鳩を飛ばせる。花びらの吹く中を歩いて行く。そんな素敵な結婚式だ。エリザベートの着ているウェディングドレスに少女たちは憧れ、胸元には光り輝く宝石……。  ところが事件が起こってしまった。それが宝石の盗難事件である。
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