第1章

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 しかしグチっていてもしょうがない。盗まれた宝石の行方について、エリザベートにはある仮説があった。  犯人はどうやって宝石を盗んだのか。宝物庫は高い塔になっており、周囲の建物とは離れていて、ロープで渡ってくることは難しい。壁が反り返っているため、よじ登れることもできない。  唯一の入口である扉は二人の衛視に交代で見張られていた。  空でも飛ばない限り、侵入することは不可能……そう思ったとき、リジーの中に一つの心当たりが浮かんできた。 「もしかして、ドラゴン……?」  ドラゴンを使えば、宝物庫の天窓から侵入することができる。  犯人は夜陰にまぎれて天窓から侵入し、首飾りを盗んだのではないだろうか。  しかし証拠はない。近衛兵に言ってみたが相手にされなかった。 「ドラゴンに乗ることができる人が犯人……」  自分で動くしかない。そう思った。  そうなると護衛とはいえ、騎士たちは邪魔だった。 「ねぇ、私ね、ドラゴンが宝石の盗難に関係しているんじゃないかと思うの」 「さようでございますか」  騎士は丁寧に答えた。エリザベートがドラゴン犯人説を主張したのはみんなが知るところである。 「ドラゴンを飼っている地域があるでしょう? そこから人を呼んでもらえないかしら? 貴族の話を聞きたいの」  郊外に住んでいる貴族たちは道楽でドラゴンを飼っている。そこまで往復するとなると、馬でなければ無理だろう。 「承りました。皆が戻りましたら、城で馬を調達して向かいます。」 「大丈夫よ、みんなが聞き込みから戻ったら、一度城に戻るわ。だから、馬を向かわせておいて」 「分かりました、急いで用意して参ります」  エリザベートを残すと、城へと戻って行った。 「よし、今のうちに……」  エリザベートは、騎士たちが聞き込みから戻って来ないことを気にしながら、公園から、そうっと抜け出した。これでしばらくは一人で自由に動き回れる。  そうしてエリザベートは宝石泥棒を捕まえようと、ドラゴンを探し始めたのであった。  エリザベートが王女だと知り、マルセルは明らかに固まった。 「お、王女って、あんた、なに言って……。本物の王女さまだっていう証拠は?」 「私の身分はお城で証明してくれるわ。ただ、あなたはすぐ門番に捕まると思う。宝石さえ返してくれれば、棒打ち百回で済むように頼んであげるけど」
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