第1章

15/80
前へ
/80ページ
次へ
 言いながら、エリザベートは腰に帯びていた短剣を取り出した。 「これ、護身用の短剣よ。ほら、柄の部分にブルーテ王国の紋章が刻印してあるでしょう。あと、刃には私の名前も」  短剣を受け取ったマルセルは真剣な顔で見ている。角度を変えて何度も見ているのは、本物かどうか鑑定しているようだ。 「本物のサファイア……石も大きいし、色の発色もいい……一級品だね。刻印も見事だ……君は本当にお姫さまなのか?」  マルセルは目利きができるらしい。 「嘘だろ……」  配送員のマルセル、か。とてもやさしい人だ。  そしてふと思った。  まだ見ぬ婚約者のアレクサンドル王子も、ドラゴンを好きだろうか。きっと好きになってくれるに違いない。  エリザベートがドラゴンを飼いたいと言えば、こころよく飼ってくれるだろう。  二人で仲良く世話をして、休みの日にはドラゴンに乗って散歩にいくのだ。  なんて幸せなのだろう!  やさしいアレクサンドル王子! 美しいドラゴン! 楽しい日々を送るのだ!  そこまで考えてエリザベートは溜息をついた。妄想にひたっていてもしかたない。  それに自分のしたことは、よく考えたら失礼なことだ。マルセルを犯人と決めつけて、刃物を向けたのだ。 「あの、マルセル……」  エリザベートの言葉に、マルセルは不意を突かれたようにこちらを見た。まだ頭の中で状況を整理しているのかもしれない。 「あなたは犯人じゃないわ、カッスルロッシュが違うって言ってるし。犯人だって思い込んで、刺そうとしてごめんなさい」 「ああ、大丈夫。気にしてない」  上の空な様子でマルセルが返事をした。まだ混乱しているのだろう。  三 城下町  下宿屋の一室、マルセルの部屋。 「エリザベート姫といえば、今度どこかの国の王子さまと結婚するお姫さまじゃないか。どうしてこんなところにいるんだ?」 「しっ! 静かに!」  興奮して、声が大きくなったマルセルをたしなめた。 「だから、宝石泥棒を探してるのよ」 「宝石? そう言えばずっと宝石の話してるな」  エリザベートは今までの経緯を簡単に説明した。  婚約者の国、東の大国オーステン国から家宝の首飾りが届いた。  箱に納められた宝石は、そのまま宝物庫に入れられ、唯一の入口である鉄製の扉の前には見張りが立った。
/80ページ

最初のコメントを投稿しよう!

71人が本棚に入れています
本棚に追加