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言いながら、エリザベートは腰に帯びていた短剣を取り出した。
「これ、護身用の短剣よ。ほら、柄の部分にブルーテ王国の紋章が刻印してあるでしょう。あと、刃には私の名前も」
短剣を受け取ったマルセルは真剣な顔で見ている。角度を変えて何度も見ているのは、本物かどうか鑑定しているようだ。
「本物のサファイア……石も大きいし、色の発色もいい……一級品だね。刻印も見事だ……君は本当にお姫さまなのか?」
マルセルは目利きができるらしい。
「嘘だろ……」
配送員のマルセル、か。とてもやさしい人だ。
そしてふと思った。
まだ見ぬ婚約者のアレクサンドル王子も、ドラゴンを好きだろうか。きっと好きになってくれるに違いない。
エリザベートがドラゴンを飼いたいと言えば、こころよく飼ってくれるだろう。
二人で仲良く世話をして、休みの日にはドラゴンに乗って散歩にいくのだ。
なんて幸せなのだろう!
やさしいアレクサンドル王子! 美しいドラゴン! 楽しい日々を送るのだ!
そこまで考えてエリザベートは溜息をついた。妄想にひたっていてもしかたない。
それに自分のしたことは、よく考えたら失礼なことだ。マルセルを犯人と決めつけて、刃物を向けたのだ。
「あの、マルセル……」
エリザベートの言葉に、マルセルは不意を突かれたようにこちらを見た。まだ頭の中で状況を整理しているのかもしれない。
「あなたは犯人じゃないわ、カッスルロッシュが違うって言ってるし。犯人だって思い込んで、刺そうとしてごめんなさい」
「ああ、大丈夫。気にしてない」
上の空な様子でマルセルが返事をした。まだ混乱しているのだろう。
三 城下町
下宿屋の一室、マルセルの部屋。
「エリザベート姫といえば、今度どこかの国の王子さまと結婚するお姫さまじゃないか。どうしてこんなところにいるんだ?」
「しっ! 静かに!」
興奮して、声が大きくなったマルセルをたしなめた。
「だから、宝石泥棒を探してるのよ」
「宝石? そう言えばずっと宝石の話してるな」
エリザベートは今までの経緯を簡単に説明した。
婚約者の国、東の大国オーステン国から家宝の首飾りが届いた。
箱に納められた宝石は、そのまま宝物庫に入れられ、唯一の入口である鉄製の扉の前には見張りが立った。
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