第1章

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 エリザベートはどうしても宝石を見たかったが、長い旅をした宝石を休ませなければならないというオーステン国のしきたりのため、決して見せてもらえなかった。  そして次の日、強引に宝石を見せてもらうと、宝石箱の中は空っぽであった。 「だから私は宝石泥棒を捕まえたいの」 「それって、お姫さまが直接探さなくても」  当然のことを言ったマルセルをエリザベートは睨みつけた。 「あの首飾り、弁償させられたらどうしてくれるの?」 「婚約者相手に弁償させるかな?」  マルセルは呆れ顔である。婚約者なら、うっかり家宝の首飾りをなくしても許してくれるとでも思っているのか。  そんなわけがない。  だいたい、向こうとはまだ会ったこともない。  結婚は結婚。お金はお金。それがエリザベートの持論だった。  他人相手なら絶対そうであろう。エリザベートも宝石を無くされたら、弁償しろとすごく怒る。  だけど、家族が相手なら、その考えも変わるかもしれない。  もしかしたら、アレクサンドル王子は愛の力で許してくれるのではないだろうか。  なんといっても結婚するのだ。父と母のように、仲睦まじく暮らすのだ。  そうなったら、自分の妻のことは大事にしてくれるはずだ。  オーステン国は許してくれないが、アレクサンドル王子はエリザベートをかばってくれるのだ。 「きっと、アレクサンドル王子は弁償しなくていいって言ってくれるわ。愛の力の前には、高価な首飾りなんてただの石になるはずよ。だけど、あの首飾りはすごく高いの! あんな高価な宝石を無くしたことを、なかったことにしてもらったら、なんだか悪いわよね」 「王さまなら、弁償くらい簡単じゃないのか?」  王家といえば、お金が有り余っていて、贅沢三昧な生活を送っていると思っているのだろう。甘いな。 「そんなわけないでしょう。うちはめちゃくちゃお金がないんだから」 「そうなのか?」 「うちにくる観光客から、どれだけお金を落としてもらおうと頑張ってるか。私なんて式典なんかに出るときは同じドレスを着回してるし。国内の貴族の家にお呼ばれするときは、こっそり余った料理を持って帰ってるのよ。もう、本当に涙ぐましい努力を日々してるんだから。よその国、しかも大国と言われている国にいったら、びっくりするわよ。お城の大きさ、ドレスや宝飾品の豪華さ、町並みの美しさといったら、もう……」
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