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「分かった。ここにはカッスルロッシュしかいなくて、配達員が交代で使ってる。配達は昼間が多いけど、忙しいときには夜も配達する」
「でも、どうしてドラゴンなの?」
「え?」
「さっきマルセルがドラゴンで運んでた荷物は、歩いても充分にいける距離の家だったわ。ドラゴンが飛ぶと、町の人たちはみんな注目するわよね。悪い噂もそこからきてるのかもしれないじゃない。なぜドラゴンを使うことになったの?」
緑の国ブルーテ王国ではドラゴンの飼育は禁止されていないけれど、一般的に飼われる生き物でもない。
「確か……一年前に俺がここで働くようになって、そのあとすぐに、従業員のゲイルさんの友達からドラゴンの卵を買ったんだ」
「卵? ドラゴンの卵を買ったの?」
余裕のある貴族が郊外で飼っていたドラゴンが産んだ卵で、それを売りに来たそうだ。
「俺が育てたんだ。孵卵器を借りてきて、一日つきっきりでかえしたんだ」
「ドラゴンって一日で孵化するの?」
「そう、すごいだろ? ドラゴンの卵って最初から熱くて、煙が出てるんだ」
煙の出ている卵。まったく想像がつかない代物だ。
「孵化するときがすごいんだ。リジーにも見せたいよ。孵卵器に入れて五時間ぐらいすると、少しずつひびが入る。十時間ぐらいすると、さらにひびが増えてくる。だんだんひびが増えていくんだ」
マルセルはジェスチャーつきで話し始めた。
「それで十五時間ぐらいすると……舌が出てくるんだ! 卵の割れ目からドラゴンの舌が!」
マルセルの話はグロテスクだとエリザベートは思った。だんだん嫌気が差してきた。
うえっと思ったが、エリザベートは我慢してあいづちを打った。
「そして二十時間ぐらいすると、顔が見えてくるんだ。少しずつ卵のカラがはがれてきて、くるくるした目が見えてくる。煙もあがってね。それはもう……」
うんうんと形だけエリザベートはうなずいた。相手は恩人だ。蹴飛ばしてはいけない。
「二十時間を過ぎると体がだいぶ現れるよ。煙はますますあがる。ちろちろとした舌。鋭くも美しい瞳。輝くウロコ。それらがゆっくりと姿を現すんだ。背中の羽もかぎ爪もまだ小さくてね。あんなに愛らしい生き物はこの世にいないよ……」
エリザベートは黙ったまま、拳でマルセルの頭をごんと叩いた。
「痛っ……。なに? リジー?」
「別に、なにも」
エリザベートは冷たく答えた。なんだか無性に腹が立った。
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