71人が本棚に入れています
本棚に追加
なぜ腹が立ったのかは自分でもよく分からなかった。
「とにかく、配送のいい宣伝になるって強引に売りつけられたんだ。維持費がかかるから、品評会に出してみるんだ」
人のいい経営者に強引にドラゴンを売りつけるなんて、ずいぶんひどい話だ。
「ねえ、マルセル。宝石泥棒の目的ってなんだと思う?」
ずっと気になっていたことをエリザベートは聞いてみた。
犯人は分からない。でも、盗んだ目的が分かれば、そこから犯人を推測することができるかもしれない。
「売ってお金にするとか?」
「そんなわけないでしょう」
能天気なことを言ってくるマルセルに、エリザベートは言った。
「東の大国オーステン国の家宝よ? あっという間に足がつくわ。見つかったら、問答無用で死罪よ。闇ルートで売るとしても、危険じゃない? しかも、なぜ、うち……緑の国ブルーテ王国に来てから盗んだのかしら?」
「確かに。下手をすれば東の大国オーステン国と緑の国ブルーテ王国にもめごとが起こるかもしれない。婚約破棄って可能性も……」
「それ!」
今度はエリザベートが大声を出した。しーっとマルセルが注意する。
「分かった」
声をひそめながらエリザベートは言った。
「なにが?」
「和平反対派よ。あいつらだわ」
「和平……? なに?」
驚いているマルセルを見て、エリザベートは、やっぱりこの人は関係ないなと改めて思った。
和平反対派は緑の国ブルーテ王国と東の大国オーステン国との同盟に反対をする勢力で、その全貌は把握できていない。一般市民にはそれほど知られていないらしい。
和平反対派はエリザベートの婚約を発表したあと、つまりオーステン国との同盟が発表されたあとに活発に活動し始めている。
城に爆弾をしかけたという脅迫状が届いたときは、城中が大騒ぎになった。
結局、なにもなく、ただのいたずらであった。
城に「火の用心」という手紙がきたこともあった。
放火されるのではないかと、しばらく周囲は心配していた。しかし、これもいたずらであった。
実態をつかめないものの、同盟に反対する勢力がいるのはまちがいない。
しかし、和平反対派について、箝口令を出していないし、シャルロッテがエリザベートを外出させてくれたことを考えても、そこまで危険視もしていないのだろう。
だけど、どこかに和平反対派の一味がいるはずだ、この国の中にも。
最初のコメントを投稿しよう!