第1章

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 なぜ腹が立ったのかは自分でもよく分からなかった。 「とにかく、配送のいい宣伝になるって強引に売りつけられたんだ。維持費がかかるから、品評会に出してみるんだ」  人のいい経営者に強引にドラゴンを売りつけるなんて、ずいぶんひどい話だ。 「ねえ、マルセル。宝石泥棒の目的ってなんだと思う?」  ずっと気になっていたことをエリザベートは聞いてみた。  犯人は分からない。でも、盗んだ目的が分かれば、そこから犯人を推測することができるかもしれない。 「売ってお金にするとか?」 「そんなわけないでしょう」  能天気なことを言ってくるマルセルに、エリザベートは言った。 「東の大国オーステン国の家宝よ? あっという間に足がつくわ。見つかったら、問答無用で死罪よ。闇ルートで売るとしても、危険じゃない? しかも、なぜ、うち……緑の国ブルーテ王国に来てから盗んだのかしら?」 「確かに。下手をすれば東の大国オーステン国と緑の国ブルーテ王国にもめごとが起こるかもしれない。婚約破棄って可能性も……」 「それ!」  今度はエリザベートが大声を出した。しーっとマルセルが注意する。 「分かった」  声をひそめながらエリザベートは言った。 「なにが?」 「和平反対派よ。あいつらだわ」 「和平……? なに?」  驚いているマルセルを見て、エリザベートは、やっぱりこの人は関係ないなと改めて思った。  和平反対派は緑の国ブルーテ王国と東の大国オーステン国との同盟に反対をする勢力で、その全貌は把握できていない。一般市民にはそれほど知られていないらしい。  和平反対派はエリザベートの婚約を発表したあと、つまりオーステン国との同盟が発表されたあとに活発に活動し始めている。  城に爆弾をしかけたという脅迫状が届いたときは、城中が大騒ぎになった。  結局、なにもなく、ただのいたずらであった。  城に「火の用心」という手紙がきたこともあった。  放火されるのではないかと、しばらく周囲は心配していた。しかし、これもいたずらであった。  実態をつかめないものの、同盟に反対する勢力がいるのはまちがいない。  しかし、和平反対派について、箝口令を出していないし、シャルロッテがエリザベートを外出させてくれたことを考えても、そこまで危険視もしていないのだろう。  だけど、どこかに和平反対派の一味がいるはずだ、この国の中にも。
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