第1章

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 そう考えて、エリザベートは背筋がぞっとした。  どこかから、いつも知らない誰かに狙われているなんて、気持ちのいいものじゃない。 「和平反対派か。そういう話を聞くと、どこかのお姫さまと話してるみたいだ」  マルセルに皮肉を言われた気がする。 「和平反対派が盗んだと仮定して。宝石を盗めるかどうか試してみたいわ」 「試す?」  マルセルは話がつかめないらしい。 「今からカッスルロッシュを飛ばせるかしら? お城までいって、窓から入れるかどうか実際に試してみたいの」  さすがにマルセルは二の句が継げないらしい。 「あ、暗くなってからでいいから」  エリザベートも、ひくつもりはなかった。一刻も早く宝石泥棒を捕まえなければ。 「私、一度、お城に帰るわね。お城の裏門は分かる? 日没の鐘がなる頃にそこで会いましょう。もちろんカッスルロッシュも連れてきてね? それで試しましょう」  マルセルはがっくりと膝をついて、頭をかかえている。 「じゃあ、またあとでねー」  エリザベートが部屋の外に出ると、廊下で男の人とすれ違った。背が高くがっしりした体格をした男で、こちらをじろじろと見てきている。なんとなく感じの悪い人だ。 「こんにちは」  あいさつしないのも失礼かと思い、エリザベートは会釈した。  そのまま下宿を出て歩き始めた。天気はいいし、風もない。  今日の夜にはカッスルロッシュにまた乗れる。なんだか気持ちが浮き立ってきた。 「ふん、ふん、ふ~ん」  エリベートは鼻歌を歌いながら、機嫌よくお城へと帰っていった。  エリザベートがお城まで戻ってきたとき、騎士団たちは上の者に報告するかどうかでもめていた。宝石の紛失に続いて、姫まで誘拐されたとなれば一大事である。 「ごめんなさい。あの……一人で散歩してみたかったの」  エリザベートは素直に謝った。 「ドラゴンに乗せてもらって上空から町を見せてもらっていたの」  話のつじつまは合っている。 「私のワガママで、あなたたちが怒られるのは胸が痛むわ。このことは内緒にしておいてちょうだい?」  そう言い残すと、エリザベートは自室に戻った。  シャルロッテの部屋専用の呼び鈴を鳴らすと、シャルロッテはすぐにやってきた。 「ただいま、シャルロッテ」 「おかえりなさいませ。ああ、ご無事でなによりでしたわ」  シャルロッテはエリザベートの顔を見て、心からほっとしたようだ。
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