第1章

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「おととし、海の都シュトローム国を訪問したときは、ハーブで蒸された魚を食べたわ。あとヘヴンズフルーツのタルトも食べたし、ローズウォーターのジュースも飲んだわ」  何種類ものハーブとたくさんの果物で蒸された魚。塩はクリームのようにまろやかだった。  花の香りのオリーブオイルがたくさん使ってあった。オリーブオイルだけでも何種類もあるのだと説明された。フルーティーなもの、スパイシーなもの。それらを料理によって使い分けるのだという。  ヘヴンズフルーツは初めて食べた味だった。濃厚な甘さがくせになりそうだった。  ローズウォーターもとてもおいしかった。  エリザベートは軽い気持ちで言ったのだが、マルセルはたちまち不満そうな表情になった。 「ごちそうを食べてたんだ……おいしかった?」 「本場の料理だけど、今日はあんまりおいしくなかったわ……」  エリザベートのがっかりした表情を見ると、マルセルはそれ以上なにも言ってこなかった。 「とにかく。時間がないから急ぎましょうか。ええっと、今の時間だと警備は……」  エリザベートは喋りながら歩き始めた。  そのとき、背後からなにかが倒れるような音がした。 「マルセル……?」  振りむくと同時に、誰かにきつく腕をつかまれた。 「誰……」  聞こうとしたが半分以上は声にならなかった。  口元に布の感触を感じ、エリザベートの視界は完全に暗闇に包まれた。  五 誘拐 「まったくよく動き回る姫だな。子どものくせに生意気そうな顔だ」 「まだ十五歳だろ。お城の中でおとなしくしていればいいものを」  数人の話し声が耳に入ってくる。  エリザベートはぼんやりした意識の中で、誰かに自分の悪口を言われているのを感じた。 「この姫、他に武器は持っていないだろうな」 「ああ、この短剣だけだ。男のほうは完全に丸腰だった」  腰につけていた護身用の短剣は奪われてしまったらしい。あれはけっこう値打ち物だというのに。 「ところで、こっちの男のほうはどうする?」 「ああ、こいつならなにかと使い道があるだろう」  やっと目が開いた。ベッドに寝かされていたようだ。小さな小屋の一室らしい。  エリザベートは頑張って半身を起こした。  マルセルは手と足をしばられて床に転がされていた。気を失っているように見える。  エリザベートも少し記憶がない。口元に布を当てられたような……。
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