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どうやら薬をかがされて誘拐されたようだ。腕や足をしばられてはいない。自分の髪の毛が顔にまつわるのが邪魔で、エリザベートは軽く頭をふった。
「あんたたち……」
エリザベートはこちらを見ている男たちにむかって口を開いた。
「和平反対派ね」
数人の男たちは、いったん驚いた表情をした。そしてそれから睨んできた。どうやら予想が当たったようだ。
「勘のいいお姫さまだね。初めまして」
男の一人が嫌味なくらい丁寧な物腰でお辞儀してきた。
舞踏会で王族と会った貴族があいさつをするような、優雅な仕草だった。
「お姫さま?」
エリザベートはオウム返しに聞き返した。
「そうですよ、エリザベート姫。ブルーテ王国の王位継承権八位の正統な王女。美形ぞろいのご兄弟の中で唯一目立たない容姿ですが、血筋も身分も確かです」
バカにされたような口調で言われ、エリザベートの頭に血がのぼった。
「こちらこそ初めまして……なんて言うと思ってるの?」
知らず知らずに声が大きくなっていた。
マルセルも今の大声で目を覚ましたようだ。こちらを見上げるダークブルーの瞳と目が合った。
「これは誘拐事件よ。分かってるの? あんたたち、ただじゃすまなくなるわよ。でも今なら穏便にすませてもいいわ。今すぐ私たちをお城に返して」
男は三人。
さっきあいさつしてきた一見上品そうな男。身なりといい物腰といい、富裕層に見える。
あとの二人は体格が良く、人相はあまりよくない。手下だろうか。
「そちらの坊やはお城の者じゃないでしょう。まあ使い道があるうちは傷つけやしませんよ。そしてお姫さま、仮にもあなたは王女だ。我々はあなたになにもするつもりはありません。安心してください」
「マルセルはお城の者よ。今から私の秘書に任命するわ。あんたたちには指一本触れさせないから」
男は鼻で笑ったが、それ以上なにも言ってこなかった。
それにしても、こいつらはどこからエリザベートとマルセルが会うことを知ったのだろう。
夜にお城の外で二人が会うのを見はからって誘拐してきたのだ。城の中に内通者がいるのだろうか。
「オーステン国との和平に反対してどうするつもり? 二国間が手を結べば国は栄え、富をもたらすはず。国民のためになりこそすれ、憂うような点は見当たらないわ。一体なにが不満なの?」
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