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「どうして俺の名前を……まぁいいか、えっと、エリザベートさん? お金が欲しいなら……小銭くらいしかないけど全部あげるよ。だからおとなしく帰ってくれないかな?」
なだめるような口調に、エリザベートはかっとなった。
「なによ、宝石泥棒のくせに!」
本当に刺してやろうか、いや、口を割らせるのが先かとエリザベートが考えたとき。
かつんかつんとゆっくりとした足音が後ろから聞こえてきた。
エリザベートが振り返ると、おじいさんがこっちにむかって歩いてくる。
服装からすると、パン職人だろうか?
「配送員さん、お釣りまちがえてるよ」
「ちょっと、あのおじいさん、あんたの仲間じゃないでしょうね」
エリザベートが短剣を突きつけると、マルセルはため息をついた。
「そんなわけないだろう。頼むからあの人まで巻きこまないでくれよ」
パン屋のおじいさんは二人の切迫した空気には気づかないらしい。
「関係ない人を傷つけるつもりはないわ」
「分かった。話はあとで聞くから、路地の入口で待ってて、エリザベートさん」
エリザベートは納得いかなかったが、知らないおじいさんを巻きこみたくなかったので、マルセルの言葉に従い、短剣を鞘に納めた。
路地の入口には大きな生き物がいた。
エリザベートはじっと眺める。
大きな翼、輝く鱗に覆われた体。とても大きい生き物だ。そしてこちらを見ている瞳。
ドラゴンだった。
悠然とした姿は威厳がある。思っていたよりも大きく、そしてとても美しい。「配送中」と書かれた青い札を足につけている。
エリザベートは前から近くで見てみたいと思っていた。
近づいてドラゴンを見あげる。背中に生えた翼は否応なしに目立つ。
四つの足を地面につけると体高はこちらの身長ぐらいだろうか。
後ろ足で立ち上がるとかなり高そうだ。
鱗は一枚一枚が輝いている。目は鋭いが、同時に吸い込まれるほど綺麗でもある。
首輪に手綱、背中には鞍やベルトがつけられている。サイズはだいぶ違うが、乗り具を見ると馬具と変わらない。
首から大きなカゴを下げている。これで荷物を運ぶのだろうか。
エリザベートが側にきても、ドラゴンは目をつむっていた。
そうっと触ろうとすると、気配を察したのか、目を開けた。瞳孔が急に小さくなる。
「綺麗……」
エリザベートが触れるか触れないかまで手を伸ばしたとき。
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