第1章

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 カッスルロッシュは横を向いて少しだけシュボッと火を噴いた。 「ああ、イライラしてるんだな。よしよし」  マルセルはそう言うと、慣れた手つきで何度もカッスルロッシュをなでた。 「帰ったらハチミツケーキをやろう」  その言葉にカッスルロッシュは機嫌を直したらしく、マルセルの肩に頭を乗せて甘えるような仕草をした。  エリザベートは感心した。 「へえー、マルセルには素直なんだ」 「女の子特有のかわいい顔してるだろう」  どう見ても、翼の生えた大きなトカゲという風体だ。性別までは分からない。  まして顔立ちなど見分けられるはずがない。  エリザベートはマルセルを見つめた。カッスルロッシュはマルセルになついている。  これだけドラゴンにやさしい人が、泥棒をするような悪人だとは思えなかった。  むしろとてもいい人な気がする。刃物を向けられた上に、名前しか知らない小娘にやさしくできる人は珍しい。 「エリザベートさん、家はどこ? 配達屋に戻らないといけないけれど、そのあとで家まで送るよ。きっと家の人が心配しているよ?」 「心配……してるでしょうね」  エリザベートが目をやった先には、大きな公園があった。たくさんの市民が遊んだり、くつろいだりしている。その向こうには田園が広がり、はるか彼方にはお城が見える。 「……まあ、いいか。ドラゴンに乗って」  エリザベートが近づくと、カッスルロッシュは首を振って抵抗した。 「こら、どうした? エリザベートさんを乗せたくないの?」 「あんたねー、いいかげんにしないと、ウロコをはがすわよ? デカいだけのトカゲのくせに」 「なんてひどいことを!」  マルセルはきつい口調で言った。 「だって、ただの大トカゲじゃないの」  エリザベートは面白くなかった。 「トカゲじゃなくて、ドラゴンだ。それに、生き物をいじめるなんて」 「それは……」  マルセルの言うことはもっともだ。 「カッスルロッシュ、よしよし……」  マルセルはカッスルロッシュに声をかけながら、何度も首をさすった。  怒られたエリザベートを見て、カッスルロッシュは気が済んだのか、おとなしくなった。 「もう大丈夫。さあ、エリザベートさん、乗って」 「どう乗ったらいいの?」 「カッスルロッシュの背中に鞍が置いてあるから、そこに座って」  マルセルは先に乗ると、エリザベートを引っ張りあげて、後ろの座席に乗せてくれた。
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