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カッスルロッシュは横を向いて少しだけシュボッと火を噴いた。
「ああ、イライラしてるんだな。よしよし」
マルセルはそう言うと、慣れた手つきで何度もカッスルロッシュをなでた。
「帰ったらハチミツケーキをやろう」
その言葉にカッスルロッシュは機嫌を直したらしく、マルセルの肩に頭を乗せて甘えるような仕草をした。
エリザベートは感心した。
「へえー、マルセルには素直なんだ」
「女の子特有のかわいい顔してるだろう」
どう見ても、翼の生えた大きなトカゲという風体だ。性別までは分からない。
まして顔立ちなど見分けられるはずがない。
エリザベートはマルセルを見つめた。カッスルロッシュはマルセルになついている。
これだけドラゴンにやさしい人が、泥棒をするような悪人だとは思えなかった。
むしろとてもいい人な気がする。刃物を向けられた上に、名前しか知らない小娘にやさしくできる人は珍しい。
「エリザベートさん、家はどこ? 配達屋に戻らないといけないけれど、そのあとで家まで送るよ。きっと家の人が心配しているよ?」
「心配……してるでしょうね」
エリザベートが目をやった先には、大きな公園があった。たくさんの市民が遊んだり、くつろいだりしている。その向こうには田園が広がり、はるか彼方にはお城が見える。
「……まあ、いいか。ドラゴンに乗って」
エリザベートが近づくと、カッスルロッシュは首を振って抵抗した。
「こら、どうした? エリザベートさんを乗せたくないの?」
「あんたねー、いいかげんにしないと、ウロコをはがすわよ? デカいだけのトカゲのくせに」
「なんてひどいことを!」
マルセルはきつい口調で言った。
「だって、ただの大トカゲじゃないの」
エリザベートは面白くなかった。
「トカゲじゃなくて、ドラゴンだ。それに、生き物をいじめるなんて」
「それは……」
マルセルの言うことはもっともだ。
「カッスルロッシュ、よしよし……」
マルセルはカッスルロッシュに声をかけながら、何度も首をさすった。
怒られたエリザベートを見て、カッスルロッシュは気が済んだのか、おとなしくなった。
「もう大丈夫。さあ、エリザベートさん、乗って」
「どう乗ったらいいの?」
「カッスルロッシュの背中に鞍が置いてあるから、そこに座って」
マルセルは先に乗ると、エリザベートを引っ張りあげて、後ろの座席に乗せてくれた。
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