第1章

7/80
前へ
/80ページ
次へ
「ねえ、かごに人は乗れないの?」  ドラゴンの首からさがっているかごは、人ひとりならなんとか乗れそうな大きさだ。 「あ、ゴンドラか。着地のときにぶつかることがあるから、壊れないような荷物しか乗せないんだ」 「そうか、乗ってみたかったんだけどな」  マルセルは首からさげている笛を手に取った。 「カッスロッシュ、飛んで」  笛を一回吹くと、それを合図にドラゴンは翼を羽ばたかせた。  たちまちものすごい風が巻き起こる。周囲の小さな物が飛んでいくのが、エリザベートの目のはしに映った。  ドラゴンは胸をそらせて翼を羽ばたかせ、背伸びするような体勢から軽く跳ねた。途端にドラゴンの巨躯がふわっと浮きあがった。大きく羽ばたかせた翼をばっさばっさと大きな音を立てながら、天にむかって飛び始めた。  目の前の景色が、あっという間に下に見えるようになった。音と風がすごい。  馬よりもうんと大きいので、鞍が驚くほど大きい。振動も風も、なにもかもが、馬の十倍ぐらいだ。胸がドキドキする。  しばらくするとドラゴンは上昇をやめ、そのまま風に乗って空を滑るように進む。  空気が冷たい。さっきまで周りにあったものが、もうはるか下にある。空中を飛んでいるのだ。  ドラゴンのうなり声がお腹に直接響いてくる。そして、驚くほどの浮遊感。 「うわあ、すごい!」  エリザベートは歓喜の声をあげた。  ぐうっと体が宙に浮く。さらに浮遊感が疾走感に変わる。  上へと向かって昇っていくときは、ドキドキする。足が地面に着かない感覚。風の中を進んでいる感覚。なんて素晴らしいのだろう。  もう町並みははるか下だ。カッスルロッシュの大きな背中にいると、このままずっと飛んでいたくなる。  風に吹かれながら、空の上でずっと暮らしたくなってくる。  鳥たちが横を飛んでいく。太陽が近く感じるのに、空気が冷たい。  今まで気づいていなかったけれど、目には見えないたくさんの鎖に縛られていた。これまでにとらわれていたすべてから解き放たれた気がする。  目の前に広がる町、お城、地平線、そして果てしない空、太陽、それらのすべてがエリザベートを包んでくれているような気がした。  空を飛ぶとは、こういうことなのか。  今度シャルロッテも乗せてあげよう。きっと悲鳴をあげて怖がるだろうけど、人間なにごとも経験だもの。 「あ……」
/80ページ

最初のコメントを投稿しよう!

71人が本棚に入れています
本棚に追加