第1章

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「カッスルロッシュはウロコのキメが綺麗なんだ。炎も上手に吐けるし、性格も穏やかだしね。品評会に出したいなって思ってるんだ。そのためにウロコを磨いたり、カギ爪を手入れしたりしてるんだ」  マルセルはカッスルロッシュの背中をなでながら、うれしそうにしている。  こんなに大切にされているカッスルロッシュに、さっきはひどいことをしてしまったなと、だんだん申し訳なくなった。 「カッスルロッシュ、さっきは蹴ったりしてごめんね。仲直りしよう?」  カッスルロッシュは謝ったエリザベートの顔をじっと見ている。なにを考えているのか表情からは読み取れないけれど、頭をゆっくりと上下に動かした。 「さっきのことは気にしてないって」 「なにを言ってるか分かるの?」 「なんとなくね」  エリザベートは感心した。  カッスルロッシュとはまだ気まずいけれど、少しずつわだかまりも解けるだろう。 「ハチミツケーキを持ってくるよ。ちょっと待ってて」  エリザベートは配送屋の建物へ駆けていくマルセルの背中を見送った。  マルセルがおやつをくれるようだ。エリザベートはハチミツケーキを食べたことがなかった。どんな味なのだろう。きっと、ハチミツの甘さがとろけるような、そんな味のケーキに違いない。楽しみだ。  こちらを見るカッスルロッシュと目が合った。さっきに比べると眼差しが柔らかい気がする。もう怒っていないようだ。 「カッスルロッシュ、ちょっと相談があるの」  エリザベートはカッスルロッシュの耳元でこっそりとささやこうと背伸びをした。しかし残念ながら身長がかなり足りない。  はるか上に見えるカッスルロッシュの顔に向かって話しかけた。 「マルセルは宝石を盗んでないわよね?」  エリザベートの言葉に、カッスルロッシュは、じっとエリザベートの顔を見た。  うれしくはなさそうだ。  こちらの出方を見ているのかもしれない。 「私もマルセルはそんな人じゃないって信じたいの」  カッスルロッシュは、少し目を細めた。イライラし始めたのかもしれない。 「だけど、もし、マルセルが盗んでいたら……」  エリザベートが言い終わらないうちに、カッスルロッシュの瞳孔がみるみるうちに縮まった。  それからエリザベートの反対方向に向けて、しゅぼぼぼぼと鼻と口から火を噴いた。かなり怒っているようだ。 「マルセルが犯人なわけがない」
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