第一章 厄年

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目に映る世界も、人も、全てが灰色に見える。 灰色の肌に灰色の髪。空も、雲も、木も、全てが灰色の世界。その灰色の世界を灰色の車が走っている。 その灰色の車はブレーキを緩めることなく、灰色の女を勢いよく()ねた。それに合わせて空に飛び散る血飛沫(ちしぶき)。 何故か、それだけは赤く、鮮明に見える。 その瞬間、速水直弘(はやみなおひろ)はまた同じ夢を見ている事に気付いた。 普段は夢だと気付くと同時に布団から出て行くが、どういう訳か腕も足も動かすことが出来ない。ただ、妙に身体が浮いているような感覚と酷い耳鳴りが残っている。 目を少し開いてみる。一気に光が網膜を刺激し、強烈な眩暈(めまい)と頭痛が襲った。しかし、目頭を押さえる事も額に手をあてる事も出来ない。
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