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諦めきれない直弘が再び森に視線を戻そうとした時、ヘリの止まっている場所から数十メートル離れた波打ち際に二つの赤いパンプスが転がっている事に気づいた。
直弘は慌てて坂を下っていく。島田も同じスピードで、拳銃を握ったまま直弘について行った。
坂を下りきった直弘は、「あと四分」と呟いているミミコの前を駆け抜けていく。
崖の上で見た場所まで辿り着いた直弘は、波打ち際に並んでいる二つの赤いパンプスを拾い上げた。それは紛れもなく、さゆりがこの厄島で履いていたパンプスだった。
小さな傷やこびりついた泥が、さゆりがこの島で生き抜いたことを表している。
直弘はそのパンプスを抱き、広大な海を遠い目で見つめる。
「さゆり……」
嗚咽混じりにさゆりの名前を口にした直弘は、パンプスを自分の腹に押さえつけるように丸くなる。
遠くからミミコの「あと十秒」という声が聴こえてくるが、直弘は立ち上がることが出来ない。
ただ静かに、海に消えていったさゆりの笑顔を心の中で探し続けた。
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