最終章 本厄

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 ――――それから更に時は流れ、直弘はゆかりの墓石の前に立っていた。  さゆりの赤いパンプスを墓石のそばに置き、両手を合わせる。 「待たせてごめん……」  そう呟いた直弘は、線香から昇る細い煙をジッと見つめる。 「今から警察に行って全て話そうと思う。あの島で、いくら死刑囚とは言え、二つの命を奪ったのは真実だから。警察に話したら命は無いってミミコは言っていたけど、黙って生き続ける事なんて俺には出来ない。まぁ、警察が信じるか信じないかは行ってみないと分からないけどね。一応、無断欠勤した件は警察へ行く前に会社へ謝りに行くから安心してくれ。ゆかり、そういうのはきっちりする性格だったもんな。さゆりもきっと、生きていたらそうしたと思う。あと、あの十億円は全額寄付した。あの金を使ったら、毎年厄年になりそうな気がするし」  直弘はそこまで話した後、空を飛んでいる飛行機を目で追う。 「もしかしたら今も、日本や世界の何処かで厄年の人は拉致されて、あの島に居るのかもしれない……。そう思ったら、自分が今こうやって生きている事が不思議で、夢の中にいるような感覚になるけど……君たち二人を愛したことは、絶対に、夢じゃないから」  線香の匂いを吸い込むように深呼吸した直弘は立ち上がり、墓石に背を向けた。  今も眼前には灰色だった世界が広がっている。しかし空だけは、青く、澄んで見えた。 了
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