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色づく
「なぁ、俺は周りの目なんてほっといて、好きに生きたいって前に言ったよな?」
学校の屋上で空を見ながら彼は言う。
フェンスに掛けた手がギシっと響くと彼は少し俯いてしばらくすると後ろにいる私に向き直した。
「それってさ、前にも言ってた、「自由になりたい」ってこと?」
「なぁ、自由ってなんだろうな」
彼はそう言って屋上から飛び降りた。
「宿題やったー?写させてー」
「えー今日もー?」
そんなどうでもいい会話が聞こえてくる。
「はーい、席につけ。宿題写しているやつは分かるからな。園田、お前、廣田の宿題写してるだろ。どうせテストの点でバレるんだから写すなよ」
そう言って教卓の前に立つ岡田先生はどうせとか、絶対こうだとか、適当な事ばかりを言う。でもまぁ、宿題写してたのは本当だからきっと園田さんも言い返せないだろう。
「…先生。私、写してないんですけど。点悪いの確かですけど見てもないのに適当な事言わないでもらえます?」
「…すまない。お前の事だから、そうかなーっと…」
「ほんとう適当…」
園田さんは、まー良いよとそっぽを向き窓の外を見ていた。
廣田さんがごめんねーと園田さんにジェスチャーでごめんと言っている。そうか、園田さんが見せてる方だったのか。私も今、岡田先生と同じ気持ちだろう。
知らないって失礼だし、怖いな。
「勉強が出来たら何やっても自由なのかな…?」
園田さんがそっぽを向いたまま呟く。私は園田さんの一つ前の席だから普通に聞こえる位置だ。
「…自由」
頭の中で自由という文字が繰り返し響く。
あの日、彼も私も中学2年生の春、自由になりたいと、誰にも関わらず、存在すら知られたくないと本気で願っていた。
彼は中学2年の夏になる前に屋上から飛び降りた。
「自由ってなんだろうな」
そう残して。
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