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その日の21:00過ぎ。
「……あれ、ヨシユキ君だったのか。こんな時間まで何やってるんだ?」
職員室の引き戸を開けて入ってきた、その魅力的なアルトの声の主は、篠原主任だった。彼女は今日は市役所に行っていたらしく、ずっと不在だったのだ。通常はスッピンでジャージがデフォな彼女だが、今は通称「お出かけモード」で、上下ともスーツに身を固め、メイクもバッチリ決めている。もう凜々しくて惚れ惚れするほどだ。
「あ、主任、お疲れ様です!」俺は愛想良く返事する。「いや、ちょっと、ネットワーク環境を改善しようと思いまして……この時間なら誰の迷惑にもならないので」
「ご苦労なことだな。残業手当は出ないぞ」
「サビ残、上等っすよ!つか、今これやっとけば、その後俺が楽になりますから。主任もこれから何か仕事をするつもりなんですか?」
「まあ、少しだけ、な」
「だったら主任もサビ残じゃないですか」
「私は裁量労働制ってヤツでな。まあ、どっちみち、残業扱いにはならんのだが……それはともかく、君、それ、どこから持ってきた?」
主任の視線が、今俺がいじっているノートPCに注がれる。
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