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「なんだ猫かぁ・・・びっくりした・・・」
女はホッとすると、再び路地を歩き始める。
曲がり角を左に曲がったところで、逆の道のほうからうめき声のようなものが聞こえてくることに気が付いた。
(なんだろう・・・?)
女は振り返って。声が聞こえてきた方向にライトを向ける。
「・・・っ」
その行動に、女は後悔した。そこにいたのは、血まみれの女性の血を吸っている男の姿であった。ライトで照らされたことで女に気づき、男は血を吸うことをやめてこちらを見つめる。そのとき女は、口からはみ出ていた長く鋭い牙のようなものを見た。
「まさか・・・吸血鬼・・・」
女の血の気が一瞬にして引いた。男は血を吸っていた女性の死体を捨てると、こちらに向かってゆっくりと歩き始めた。ぐちゃっ、と死体が地面に叩き付けられる音を聞き、女は理性を取り戻した。
(逃げないと・・・私もあんな姿に・・・)
女は男に背を向けると、走って家へと向かった。男の不気味なうめき声はまだ聞こえているが、後ろのことは気にしていられない。今はとにかく安全な所へ・・・!そう思いながら無我夢中で家へと走る。
そして、家にたどり着いたころには、男の声は聞こえなくなっていた。
扉を開けて家に入る。そしてあわててカギを閉めた。
部屋の明かりをつけ、持っていた荷物を机に置くと、そのままベッドに倒れこむ。
さっき見てしまった光景が、頭の中にこべりついて離れてくれない。
ふと思い出してしまったことがいけなかったのだろうか、突然吐き気に襲われてしまった。
「うぅ・・・」
―気持ち悪い・・・―
女は立ち上がり、ふらふらしながら洗面所に向かうと、口から胃液を吐き出した。
「はぁ、はぁ・・・」
一呼吸置くと、口をゆすいで部屋へと戻る。時刻は3時を回っていた。
女はベッドに横になり目を閉じる。同時に強烈な疲労感に襲われ、そのまま眠りに落ちてしまった。
どれぐらいの時間眠っていたのだろうか。
目が覚めると、眠る前の疲労感は一切感じなくなっていた。
十分な睡眠が取れたのだろう、そう思った直後に女はあることを思い出した。
「あっ、仕事・・・!」
慌てて時計を見てみると、おかしなことに気が付いた。
「あれ・・・時間が進んでない・・・?」
家に帰って時計を見た時には、8月26日午前3時と表示されていたはずの時計は、眠りから目覚めてもその表示は変わっていなかった。
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