1話 正直者のタヌキ、企む

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1話 正直者のタヌキ、企む

 恋と呪いは同一かもしれない。  高校二年生の春。今日が勝負の日だと、三笠(みかさ) 佳乃(よしの)は決めていた。長く続けてきた呪いのようなもの、胸のうちに抱く片思いを今日こそ解いてしまいたかったのだ。  午後の気怠さがひしめく教室に、終業のチャイムが響く。生徒たちはそれぞれの放課後を過ごすべく、立ち上がり教室を出ていく。佳乃も荷物をまとめていると、一人の女子生徒が近づいてきた。  金色の髪の毛を揺らしながらやってきたのは北郷(きたごう) 菜乃花(なのか)。  ハーフのため肌が白く、ウェーブがかった金色の長い髪は絵本に出てくるお姫様を思わせる。顔つきも整っていて華があり、女子生徒が憧れるぱっちりと大きな二重の瞳。  可愛いものが好きだという菜乃花は、トレードマークの赤いフリルリボンがついたヘアバンドをつけていた。頭のてっぺんからつま先までオンナノコを詰め込んだ人形のようだ。 「佳乃ちゃん、帰りましょ」  美少女の菜乃花が声をかけたのは、華やかさの欠片もない平凡な佳乃である。  菜乃花に比べれば、どっしりと重たいダークブラウンの髪。肌だって綺麗な白さではないし、顔はタヌキに似ていると言われたこともある。  外見格差を感じさせる二人の組み合わせだが、クラスメイトたちは驚かなかった。高校生になってすぐの頃は、引き立て役の佳乃と茶化されたこともあったが、二人が幼馴染であり親友とも呼べる間柄なのだと知れ渡ると騒ぐ声も落ち着いていった。  今日だっていつもと同じ。美女の北郷菜乃花がタヌキに一緒に下校しようと誘っているだけ――なのだが、少し違っていた。いつもなら頷く佳乃が、首を横に振っている。
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