21話 その時からタヌキは呪われた

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 佳乃はテーブルに置かれたマグカップを指さした。今回も例にもれず、湯気たつ透明な液体に満ち満ちている。まだ口をつけてはいないがお湯なのだろうと予想がついた。見れば剣淵のカップにも同じくお湯が注がれている。 「なんだよ、文句あんのか」 「前に聞いた時、牛乳があるって言ってたでしょ? なんでお湯なんだろうって思って」  確かこの家にあるのは肉と卵と牛乳だったか。ならば牛乳を温めて出せばいいのに、と思うのだが。そんな佳乃の考えは通じていないらしく、剣淵は首を傾げた。 「冷たいだろ」 「えっ」 「牛乳はあるけど、温かい飲み物じゃねーだろ、あれ」  剣淵の言葉を理解するのに時間がかかった。鍋に牛乳を入れて温めればいいと思っていたのだが、どうやら剣淵にその発想はないらしい。  もしかするとこの男は――おそるおそる、聞いてみる。 「あのさ、普段、何食べてるの?」 「バカにしてんのか。米と肉と卵食ってる」 「それ、料理してる?」  呆れ気味に佳乃が聞くと、剣淵は答えづらそうに「あー……」と唸った。 「知り合いが茹でた肉を持ってきてくれっから、それ食ってる」 「お米は?」 「知り合いが持ってきた冷凍したご飯を食ってる」 「……卵は?」 「飲んでる」  佳乃は頭を抱えた。ここまで料理のできない男が存在するとは思っていなかった。さらにそれが目の前にいるなんて。
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