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佳乃はテーブルに置かれたマグカップを指さした。今回も例にもれず、湯気たつ透明な液体に満ち満ちている。まだ口をつけてはいないがお湯なのだろうと予想がついた。見れば剣淵のカップにも同じくお湯が注がれている。
「なんだよ、文句あんのか」
「前に聞いた時、牛乳があるって言ってたでしょ? なんでお湯なんだろうって思って」
確かこの家にあるのは肉と卵と牛乳だったか。ならば牛乳を温めて出せばいいのに、と思うのだが。そんな佳乃の考えは通じていないらしく、剣淵は首を傾げた。
「冷たいだろ」
「えっ」
「牛乳はあるけど、温かい飲み物じゃねーだろ、あれ」
剣淵の言葉を理解するのに時間がかかった。鍋に牛乳を入れて温めればいいと思っていたのだが、どうやら剣淵にその発想はないらしい。
もしかするとこの男は――おそるおそる、聞いてみる。
「あのさ、普段、何食べてるの?」
「バカにしてんのか。米と肉と卵食ってる」
「それ、料理してる?」
呆れ気味に佳乃が聞くと、剣淵は答えづらそうに「あー……」と唸った。
「知り合いが茹でた肉を持ってきてくれっから、それ食ってる」
「お米は?」
「知り合いが持ってきた冷凍したご飯を食ってる」
「……卵は?」
「飲んでる」
佳乃は頭を抱えた。ここまで料理のできない男が存在するとは思っていなかった。さらにそれが目の前にいるなんて。
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