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運動神経もよく成績だっていいのに。天は二物を与えないというがいまならよくわかる。
「……で。偉そうに俺に聞いてるお前はどうなんだよ」
「わ、私? 上手じゃないけど剣淵よりはマシだよ。インスタントラーメン作れるもん」
「インスタントラーメンかよ……」
剣淵よりはマシだと思っているのだが、呆れかえった反応を見るに似たレベルなのかもしれない。佳乃が生卵を飲むことはしないが。
「そんなんでよく一人暮らしの許可でたね。奇跡だ」
「うるせー。学校に行けば購買でパンとか売ってるだろ、それ食ってるから困らねーんだよ」
確かに剣淵は購買組である。昼休みになればすぐに購買部へ向かい、パンやらジュースやらを買いこんで自席に戻ってくる。いま思えば、剣淵にとって昼がご馳走だったのではないか。朝や夜はここで茹でた肉と生卵と解凍したご飯を食べていたのだから。
「剣淵はご飯作ってくれる彼女を探した方がいいね」
「は、はあ!?」
「うん。その方がいい。じゃないと剣淵、どんどん痩せてく」
何気ない一言だったのだが、剣淵は狼狽えているようだった。はあ、と深く息をはいて肩を落とし、手で顔を覆いながらぶつぶつと呟く。
「これだから女は……すぐそういう話に結び付けようとすんだよな」
「あと! 彼女ができた時にお湯なんか出さないように、コーヒーとか紅茶とか買っておいた方がいいんじゃない?」
「いらねーよ、んなもん」
「そう言いながらモテるでしょ。体育祭でファンも増えたし、剣淵がその気になればいつだって――」
そこまで言って気づく。向かいに座っている剣淵が、真剣な顔をしてこちらを見つめていた。浅い会話では許されないとばかりに、まなざしに緊張が含まれている。
「お前は……伊達のことが好きなんだろ。なんでここにきたんだ」
ここにきてから自ずと本題を避けていた。それに触れてしまえば、剣淵の部屋にいることができなくなってしまいそうで、もう少し指先が温まるまでと思っていたのだ。しかし指先どころか体まで、雨の冷たさを忘れている。
本題を求めるように送られる視線に対し、佳乃は逃げずに向き合った。
「私は、伊達くんのことが好き、だけど」
「なんであいつが好きなんだよ」
「それは……」
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