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言うまいか迷ったが、ここまでたくさん協力してくれた剣淵なのだ。話してもいい頃だろう。
「……小さい頃、伊達くんに助けてもらったことがあるの」
菜乃花と蘭香にしか話したことのない、夏の記憶。伊達とはじめて出会った大切な思い出と同時に、それは佳乃の人生を狂わせた日でもある。
「結構、うろ覚えなところも多いんだけど……私が小学一年生の時にね、弟が生まれることになったの」
それは十一年前の夏休みだった。
弟を身ごもり臨月に入ろうかという頃、佳乃の母が倒れた。容体によってはこのまま出産になるかもしれないと入院することが決まったのだが、父は仕事を休むことができず、佳乃一人が家に残されることになってしまったのだ。
「近くに親戚がいなかったから困ったらしいんだけど。隣町に住むお母さんの知り合いが、私の面倒を見てくれることになったんだ」
知り合いといっても母よりも随分と年上の、佳乃からすれば祖母を思わせる人だった。幼い頃に祖父母を亡くしているため、懐かしさを感じ、親しみをこめておばあちゃんと呼んでいた。
「隣町って……あけぼの町、か?」
「そうだよ。剣淵、転校生の癖に詳しいね」
「あ、ああ……」
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