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急な報せだった。大きくなってから知ったことだが、娘や孫たちが帰った後におばあちゃんは脳卒中によって倒れてしまった。もう少し時期が早ければ家族に見つけてもらえただろうに、一人になった後だったこともあり発見が遅れて、おばあちゃんは助からなかった。
夏休みが終わる前日、おばあちゃんの葬儀が行われた。世話になったこともあり、佳乃も父と共に向かった。おばあちゃんが亡くなったことはとても悲しかったが、夏休みを共に過ごした伊達に再び会えるかもしれないと楽しみな面もあった。
「どうしてかは……よくわからないんだけど。何か悲しいことがあったの。すごく悲しくて、寂しくて、涙が止まらなくなるようなこと」
庭に出て、一人、泣いていた。そこで佳乃は出会うのだ。近づいてくる人影、当時の佳乃と同じ年齢の男の子。泣きじゃうる佳乃に近づいて肩を叩く。
『だれなの?』
『伊達……享だよ。だから泣かないで』
たぶんその時、好きになったのだ。
この寂しい気持ちを埋めてくれる、温かな存在。伊達享のことが好きになったのだ。
「――って理由なんだけど……なんだか恥ずかしいね、こんな話!」
話し終えたところで佳乃は笑う。惚気話かと呆れてくれればまだいいものを、剣淵は度々あいづちを打ちながらも真剣な表情をしていて、どうにも照れくさかった。
「三笠……それは、」
「なに? 惚気とか言わないでね」
笑ってこの空気を誤魔化そうとしていたのだがそれは佳乃だけで、もう話は終わったというのに剣淵は変わらず何かを考えているようだった。
「……本当の話、なんだよな?」
嘘ではない。佳乃は記憶のままに語っている。それにこれが嘘ならばいまごろ呪いが発動しているはずだ。佳乃は自信たっぷりに「そうだよ」と答えた。
だから、伊達が好きなのだ。だがその夏以来、なかなか再会することができず――同じ高校に入った時は天にものぼりそうなほど幸せで、泣きそうになった。
「夏のことを伊達くんが覚えているかわからないけど……でも、それでもいいの」
佳乃でさえ記憶があやふやになっているところもあるぐらいだ。伊達が佳乃のことを覚えているかはわからない。
伊達が夏のことを覚えていたとしたら佳乃は喜ぶだろう。もし伊達が覚えていなかったとしても、それでも構わない。佳乃が覚えているのだから、それでいいのだ。
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