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「三笠!」
反応できず呆気にとられている佳乃の手を引いて無理やり立ち上がらせると、クローゼットの扉を開けた。
そこはウォークインクローゼットとなっていて、上着やシャツがかかっている。その服をかきわけてスペースを作ると、中に佳乃を押し込んだ。
「は!? えっ、な、なんで――」
「ここに隠れてろ。俺がいいと言うまで出てくんじゃねーぞ」
服といっても枚数は少ないのだが、人間が隠れるほどのスペースとしては物足りなく、居心地が悪い。奥行きがあるため、かろうじて座ることはできそうだ。
戸惑っている間に、クローゼット内に暗闇が満ちていく。剣淵が扉を閉めようとしていた。
「ま、待って――!」
佳乃の言葉を遮るように、ぱたり、と扉が完全に閉まる。
周囲は暗く、ルーバータイプの扉のために隙間から差し込む室内の明かりだけが頼りだ。その隙間を凝視していると、剣淵の姿が見える。
こんな居心地の悪い狭い場所に閉じ込められるなんて。理由がわからず、このまま扉を開いて問いただそうしたが、既に剣淵は玄関へ向かったようだった。玄関扉を開く音が聞こえて、それから――
「連絡してから来いって、何度言えばわかるんだよ……」
剣淵が誰かと話している。隠れる理由はこれだったのかと納得した佳乃だったが、次に聞こえてきたのは剣淵の声ではなかった。
「うるさいわねー、好きな時に会いにきちゃダメなの? 可愛いカナトちゃん」
それは暗いクローゼットに突き刺さりそうなほど甲高い。知らない女性の声だった。
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