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「じゃ。これで帰るから。カノジョちゃん、カナトをよろしくねー」
「お、おい……姉貴、なに言って――」
慌てる剣淵の声を掻き消すようにして、扉の閉まる音が聞こえる。
女性――剣淵の姉は帰ったのだ。それでもこの目で見るまでは信じられず、まだ心臓がばくばくとうるさく鳴っている。
身を強張らせてクローゼットの奥に潜んでいると、足音が聞こえて、それからクローゼットが開かれた。
念願の外の光である。それと、少し照れくさそうにしている剣淵がいる。
「悪かったな。出てこい」
なんて気まずいのだろう。目を合わせることができず、佳乃は俯きながらふらふらとクローゼットを出た。
佳乃が出たところで、剣淵は早々にクローゼットを閉める。それから隠れる前と同じ位置、テーブルの前でどかりと腰をおろして深く息をついた。
てっきり、帰れと言われるのではないかと思っていただけに、座りこんだ剣淵をみて佳乃も真似る。おずおずと対面に座れば、剣淵が口を開いた。
「聞こえてたと思うけど、あれ、姉貴だから」
「う、うん……ごめん、聞こえてた」
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