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一体どこで佳乃の存在に気づいたのだろう。首を傾げながら、乾いた喉をうるおそうとマグカップに手を伸ばして「あ」と佳乃は小さな声をあげた。
テーブルに二つ、マグカップが残ったままだったのだ。これでは来客がいると明かしているようなもの。そして玄関に佳乃の靴も残ったままだろう。剣淵に比べれば明らかに小さく可愛らしいデザインの、女物の靴だ。これで剣淵の姉は、彼女がきていると考えたのだろう。正確には彼女ではなくただのクラスメイトなのだが。
なるほど、と納得しながら佳乃はカップに口をつける。カップはすっかり冷めてしまい、お湯どころか湯冷ましへと変わっていた。
「……ここ、姉貴の家なんだよ」
佳乃に会話を聞かれてしまったことで吹っ切れたのか、剣淵が語る。
「俺ん家、小さい頃に両親が離婚してんだ。んで俺と姉貴は親父に引き取られたんだけど、やりたいことがあって、一人暮らしさせてもらってる」
「でもお姉さんは別の家に住んでいるんでしょ?」
二人で住むにしては狭く、見渡してもベッドは一台しかない。佳乃が聞くと、剣淵は頷いた。
「結婚して、別の家に住んでる。ここは手放す予定だったんだけど俺が借りた。だから姉貴、勝手にくるんだよ。飯持ってきてくれんのは助かるけど、勝手にくるんじゃねーっての」
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