5話 タヌキの妄想力は豊かである

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 平静を装いつつ頭をフル回転させて、佳乃は考える。ごまかしてしまえば嘘とみなされて呪いが発動してしまうのだ。できることなら口を閉ざしてこの場をやりすごしたいが、相手は初対面なのに抱き寄せてきた浮島だ。黙っていれば何をされるかわからない。ゆっくり、確かめるように言葉を選ぶ。 「……先輩は、どう思いますか?」 「あれれ。質問に質問で返してきたってことはホントなのかな? まあいいや――オレさ、昨日いいもの撮っちゃったんだよね」  そう言うと、浮島はスマートフォンを取り出して動画を再生し、佳乃に向けて掲げた。  浮島と佳乃の間は距離があったが、教室に充満する緊張がそれを感じさせない。すぐ近くで見ているかのように、音が聞こえてくる。 『こんな呪い、欲しくなかった! 普通の女子高生がよかった!』  間違いなく佳乃の叫びである。自分の声だとわかった瞬間、佳乃の背筋を冷や汗が流れ落ちていった。  この後、なにをしゃべっただろうか。必死に思い返そうとする佳乃よりも先にスマートフォンから叫び声がした。 『嘘をつくたびにキスされる呪いなんて、勘弁してよ!』  扉の隙間から撮ったのだろう荒い映像の中に、長い金髪の女子生徒と黒髪の女子生徒が映っている。菜乃花と佳乃だ。  佳乃は自分の愚かさを恨んだ。なぜ呪いのことを叫んでしまったのだろう。そう後悔しても時間が戻ることはなく、呪いの証拠は浮島に握りしめられたまま。
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