1話 正直者のタヌキ、企む

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 二年B組の伊達享といえば有名人である。彼を王子様と呼ぶのは佳乃たちだけではない。  どんな時でも笑顔を崩さず、誰が相手でも優しい。人望に厚く生徒や先生からも慕われ、リーダーシップがあることから生徒会副会長を務め、成績は常に学年首位。さらにルックスまで完璧である。男にしては色素の薄い肌に通った鼻筋。どのパーツを見ても欠点のない甘い顔つきは、女子生徒のハートをあっさりと射抜いた。 「B組は明日数学の授業があるから、今日中に返さなきゃ。一緒に帰れなくてごめんね」 「気にしないで。大事なのは私よりも――」  菜乃花は佳乃の耳元に顔を寄せた。そしてひそひそと囁く。 「大好きな伊達くんに、近づくチャンスだね」  ハートを射抜かれた女子生徒の一人が、ここにもいる。佳乃は頬を赤くしながら、こくんと小さく頷いた。  ずっと伊達のことが好きだった。長きに渡って佳乃の思考を蝕む片思いである。 「仲良くなれたらいいなって思う……ううん、仲良くなる!」  告白ほどの大きな勇気はない。だが、片思いを終わらせるため伊達に近づきたいと考えていた。     
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