61人が本棚に入れています
本棚に追加
二年B組の伊達享といえば有名人である。彼を王子様と呼ぶのは佳乃たちだけではない。
どんな時でも笑顔を崩さず、誰が相手でも優しい。人望に厚く生徒や先生からも慕われ、リーダーシップがあることから生徒会副会長を務め、成績は常に学年首位。さらにルックスまで完璧である。男にしては色素の薄い肌に通った鼻筋。どのパーツを見ても欠点のない甘い顔つきは、女子生徒のハートをあっさりと射抜いた。
「B組は明日数学の授業があるから、今日中に返さなきゃ。一緒に帰れなくてごめんね」
「気にしないで。大事なのは私よりも――」
菜乃花は佳乃の耳元に顔を寄せた。そしてひそひそと囁く。
「大好きな伊達くんに、近づくチャンスだね」
ハートを射抜かれた女子生徒の一人が、ここにもいる。佳乃は頬を赤くしながら、こくんと小さく頷いた。
ずっと伊達のことが好きだった。長きに渡って佳乃の思考を蝕む片思いである。
「仲良くなれたらいいなって思う……ううん、仲良くなる!」
告白ほどの大きな勇気はない。だが、片思いを終わらせるため伊達に近づきたいと考えていた。
最初のコメントを投稿しよう!