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「確認のために開けるよ」
運び屋はそう言って棺桶の蓋を開けた。
「ああ、美香!なんて綺麗なんだ……!」
透はうっとりしながら、愛おしげに美香の頬に触れる。
「間違いないなら良かった。閉めるよ。続きは家でやって」
運び屋は淡々と言うと、透の返事も待たずに棺桶を閉めた。
透が不満そうな顔をしようが、運び屋には関係ない。
「車は?」
「ちゃんとレンタルしてきた、ミニバンだ」
運び屋は透の言葉を聞くと、エレベーターと通じるものとは別のドアを開けた。
棺桶をドアの外へ運び込むと、目の前にはビルへの出入口、横には透が苦労して登った階段があった。
「……今日は初めから1階に来るように言えば良かったんじゃ?」
「1階のドアは特殊で、外から開けるには鍵が必要」
運び屋はつまらなそうに言うと、鍵束を見せつける。
「それよりはやく運ぶ」
運び屋は棺桶を外に出した。
外には真っ白なミニバンが止まっている。
透はミニバンのバッグドアを開けた。中を覗き込めば、シートは運転席以外すべて倒されている。
ふたりがかりで棺桶をミニバンに積むと、透はバッグドアを閉めた。
「任務完了。それじゃ、お幸せに」
運び屋は透が改めて礼を言うのを遮り、さっさとビルの中へ入ってしまった。
「なんだよ、変なヤツ……。まぁいいや」
透は妙な気分で数秒ビルを見ると、ミニバンに乗って帰った。
一方運び屋は、4階の真っ黒な部屋へ戻って紅茶を淹れていた。
「あの遺体、なかなか芸術的だったんだけどなぁ……。ま、いいや。黒い病棟のあのナース、あの子が本命だしね。あーぁ、はやく死なないかなー」
運び屋は愛しい人の死を待ち焦がれながら、紅茶を一口飲んだ。
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