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「あ、おい!……え?」
透は思わず目を見開いた。
先程は近すぎて分からなかったが、コートが揺れた時、英国青年の足が一瞬だけ見えたのだ。
それは人間の足でなく、義足だった。
「入れば?」
義足の彼は立ち止まって振り返ると、面倒くさそうに言った。
「あ、はい……」
透は驚きながらも、ドアを閉めて英国青年について行く。
義足に気を取られて気づくのが遅くなったが、部屋は黒一面だ。
壁や床、天井はもちろん、家具も全て黒で統一されている。
色があるものと言えば、彼が先程まで使っていたであろう、ティーカップと本の背表紙くらいだ。
英国青年はひとりがけのソファにどっかりと座った。
「そこ、座れば?」
英国青年は、向かいに位置するふたりがけのソファを指さして言った。
(いちいちイラッとくる言い方するな……)
透は苛立ちを抑えながら、ソファに腰掛けた。
「で、依頼って?」
英国青年は退屈そうに言う。
(本当にこんなやつに頼っていいのか?)
透は不安に思いながらも、手帳型のスマホケースから1枚の写真を取り出し、英国青年の前に置いた。
写真に写っているのは、透と結婚をするはずだった美香だ。
「へぇ、綺麗な人だね。しかもまだ若い……。他の情報は?」
「これでいいだろうか?」
透は美香のフルネームや自宅住所、電話番号やホールの名前などを書いた紙を渡した。
英国青年はそれを受け取ると、満足げに口角を上げる。
「うん、充分。ところでこの美香さんって人とアンタの関係聞いてもいい?あ、その前にアンタの名前は?」
「……小坂透、美香とは婚約者だった……。君も名乗ったらどうだい?それとそういった態度はどうかと思うけど?」
透はトゲのある言い方で言ってやった。
「名前は面倒だから運び屋でいいよ。態度が気に入らないって言うなら、他所に行けば?」
どうやら態度を変える気は、微塵もないらしい。
「……いや、どうせ当ても時間もないんだ、君に依頼するよ」
透が諦めて言うと、運び屋はニィッと笑った。
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