訪ねる合図

4/5
10人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
「ま、確かに時間ないね。なんたって今夜決行しなきゃならない。にしても引っかかる物言いしたね?どんなワケあり?」 (……お見通しか) 透は小さく息をつくと、美香との関係について話し始めた。 「美香はお嬢様だった。んで、俺はというとどこにでもいる平社員……。釣り合うわけがないんだ、それでも俺達は確かに愛し合っていた……。向こうの親は、美香が俺みたいな一般人と付き合ってると分かると美香を軟禁した。それだけじゃない。婚約者を勝手に用意したんだ……。それを苦に、美香は自殺を……」 両膝に置いた手のひらは、拳を作って怒りに震えていた。 透は許せなかったのだ。身分が違うというだけでふたりを引き離した彼女の両親を。愛する人を守れなかった自分を……。 「なるほどねぇ……。依頼を受けるのは構わないけど、ひとつだけ」 「なんだよ?」 「ご遺体を長持ちさせるために、内臓は作り物と取り替えるから傷はつく。もちろん服で隠す事は可能なんだけど、それでもいい?」 「構わない、美香が俺の所に戻るなら……」 透の目に迷いはない。 「オッケーオッケー。じゃ、明日の夕方に来てよ。報酬は成功した時にもらうから」 「明日の夕方だな……。分かった、美香を頼む」 透は一礼すると、真っ黒な部屋から出ていった。 透が出ていくと、運び屋は時間になるまで写真を見ながらゆっくり過ごした。 真夜中零時、運び屋の身体は徐々に消えていき、5分もしないで見えなくなった。 つまり、透明人間になった。 「さて、オシゴトオシゴト」 運び屋の顔つきは昼間の気だるげなそれはなく、生き生きとしていた。 運び屋は黒く塗りつぶされたドアを開けると、エレベーターに乗った。建物の割には、やたら広い。 実はこの雑居ビル、以前タダみたいな値段で売られていたのを、運び屋が買い取ったのだ。 正確には元雑居ビル、今は運び屋の職場であり、住処でもある。 依頼人への嫌がらせも兼ねて、1階のエレベーターの前には壁を作って使えなくしたのだ。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!