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怖くなって祖父を呼ぼうとしたが、そのとき、すうっと人魂を見た。いや、よく見れば、懐中電灯の光だ。誰か人がいるのだ。
いったい、何をしているんだろう?
気になった雅人は、ドキドキしながら、音のするほうへ近づいていった。木のかげにかくれながら歩いていくと、誰かが大きな杉の木の下に穴をほっている。
それはご神木と呼ばれる杉だ。
ザッザッザッ。ザッザッザッ……。
そのうち、男の姿は穴のなかに沈んで見えなくなった。そうとう深い穴をほっている。
男の頭がかくれたときに、雅人は思いきって、もっと近くまで行ってみた。真横の木のところまで移動する。
ちょうど、そのとき、男が穴からあがってきた。
雅人は木のかげに小さくなった。
男に見つかるんじゃないかと心臓が激しく脈打った。
しかし、男は雅人には気づかなかったようだ。
穴から、はいあがってくると、杉の大木の裏側から、何かをひきずってきた。
ゴミを不当投棄する気だーーと、雅人は思った。
だが、男のひきずるものが目の前を通ったとき、自分の思い違いを知った。
それは、ゴミなんかじゃない。人だ。
人間の死体だった。
しかも、知らない人間じゃない。
(蝉じいさんだ!)
それは地元で、蝉じいさんと呼ばれている老人だ。
カブトムシやクワガタの幼虫を育てて、お祭りや町のスーパーで売っている。
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