四章

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名刺に書かれた番号は警察署のものだ。しかし、裏返すと、スマートフォンの番号が走り書きしてあった。 その番号に電話する。 数秒とかからずに通話がつながる。 「はい。滝川です」 声に疲労が感じられる。徹夜明けなのだろう。 「平野愛莉です。雅人くんの友人の」 「ああ。君か。待ってたよ。ゆっくり話が聞きたくて。今、かまわないか?」 「ええ。いいですよ」 「もうわかってると思うんだが、聞きたいのは、雅人のことなんだ。雅人がいなくなる前、君に何か言ってなかったかな? どこへ行くとか、誰に会うとか」 愛莉は聞かれている意味がわからなくて、とまどった。 「いなくなる? いつのことですか?」 「いつって、二年前だよ。もちろん」 もちろん? なにが“もちろん”なんだろうか? 二年前に雅人に何かがあったのだろうか? しばらく、行方をくらましていたとか? (二年前……たしか、二年前から病気のために、この町に引っ越してきたんだって言ってた) きっと、その前に一時期、姿をかくしていたのだろう。 自分が重い病気だと知って、ショックが大きかったのだ。きっと知りあいの誰にも行くさきを知らせず、旅にでも出ていたのだと、愛莉は推測した。 そのあいだに何かが起こったということだろうか?     
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