四章

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「なんだ。勘違いしてた。わたしが言ってたの、あの人のことだよ」 「そうだったの?」 なんで、雅人と圭介をまちがって紹介してしまったのだろう? そのときの状況を思いかえしてみる。 あのときは、たしか、野次馬にまじって雅人と話していて、そこへやってきた圭介に呼びかけられた。しばらく会話したあと、杏と再会したのだ。 なるほど。自分のなかでウェイトの高い雅人のことが、つい頭に浮かんできてしまったから、「さっきのイケメン誰?」という杏の問いに、雅人と答えた。勘違いしたのは、愛莉のほうだ。 「そう言われてみれば、滝川さんも、ちょっとイケメンだね」 苦笑まじりに愛莉は言った。 「ええ? 何ィ? ノロケ? 彼氏のほうが、もっとイケてるの? 見たいィ」 「でも、杏ちゃん。すうくんと会うんでしょ?」 「そうだけど」 グッドタイミングで、杏のスマホに着信音が入った。 杏は電話に出ると、相手と話しながら愛莉に手をふる。 愛莉も手をふって、杏が歩いていくのを見送った。 一人になった愛莉は自転車をころがしながら、近辺の家の表札を見て歩いた。表札が出ていなかったら、どうしようと思ったが、少し歩いたさきに、黒川という表札の家を見つけた。 よくある二階建ての和風建築。瓦の重そうな古い造りだ。     
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