五章

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ネットで検索した内容が、ふと思いだされる。 「ねえ、雅人くん。知ってる? この神社って、昔、神隠しあったんだって」 「ああ。空蝉姫の伝説だね」 「えっ? 空蝉姫?」 雅人はうなずき、静かな声で語る。 「この神社に祀られているのはね。平家のお姫さまなんだそうだ。ほら、ここって壇ノ浦から、そう遠くないしね。合戦にやぶれて、この土地に落ちのびてきたお姫さまと、そのお付きの武者がいた。空蝉という名の、とても美しい姫だったそうだよ」 雅人に手をひかれて、石段をのぼりきる。 境内にも人の姿はない。 きっとマスコミは入口の警官に立ち入りを止められるのだろう。 境内に入ると蝉しぐれが、降るようにひびく。 サワサワと木々の葉が風にゆれる。 雅人は続ける。 「まだ、このへんが小さな村里だったころの話だ。お姫さまを哀れに思って、村人たちは何くれとなく親切にしていたんだけど、お姫さまが美しすぎたから、目立っちゃったんだね。 やがて、人の口にウワサがのぼり、追手がやっきた。村人はかくまっていたんだが、源氏の武者たちが大勢やってきて、姫を出さないと村人を皆殺しにするぞって、おどしたんだ。     
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