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神社には、とくに変なところはなかった。子どものころに来たときは、夏祭りで飾られていたから、少し記憶と違うような気もしたが、どこにでもある、落ちついたふんいき。
もちろん、死体の埋めてありそうな場所もない。
まあ、だからこそ、警察の捜査が、ここまで伸びてこないのだろう。
「とくに何かがあるわけじゃないね」
社のまわりをぐるりと歩いてみるものの、目をひくものはない。ただ、社の真うしろに、小さな塚のようなものがあった。
「ここが、空蝉姫の墓だって話だよ」と、雅人。
「そうなの」
愛莉のひざ下くらいしかない小さな塚だ。
ここに悲恋のお姫さまが眠ってるのかと考えて、見つめていると、むしょうにめまいがしてきた。
塚のまんなかに黒ずんだシミのようなものがあり、そこが、しだいに黒さを増してくるような……。
ジイジイと蝉の鳴き声か強くなる。
いや、何か別のざわめきのような?
黒いシミが渦をまいて、まわりだした。
その中心が透けてきて、景色が見える。
愛莉は雑木林のなかを一人でさまよっていた。
昼でも薄暗い、ご神木のあたり。
目の前に父が立っていた。
「愛莉。ひさしぶりだね」
「お父さん!」
「元気そうだ。よかった」
愛莉はかけより、思わず、父にすがりついていた。
こんなふうに抱きついていくなんて、何年ぶりだろうか? 小学生のとき以来だろうか。
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