五章

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「お父さん。どこに行ってたの? なんで急にいなくなったの?」 「お父さんは自分の意思で、こうしたんだよ。長くないことを知っていたからね」 「……やっぱり、そうなの? お父さんは、死んだの?」 父はだまって、うなずく。だが、そのおもてには、ほほえみが浮かんでいる。 「おまえやお母さんには何も言わずに、すまなかったね。でも、言っても信じてもらえないだろうと思ったんだ」 「何を?」 「ずっと昔からの言い伝えがあってね」 「どんな言い伝え?」 愛莉は父の言葉を待った。 しかし、なんだろうか。 木々が妙にざわついてくる。 風が強い。 「……いけない。おまえのことに、やつらが気づいた」 父は愛莉の肩をつかんで、ひきはなした。 「帰りなさい。愛莉。ずっと、おまえを見守ってるからな」 「お父さん!」 父の気配が遠くなる。 入れ違いに、周囲に何かが集まりだした。 見まわすと、あの霊たちだ。林のなかに群れている亡者が、より集まってきていた。 声にならないような、かすれた声で、しきりに何かを訴えている。 「助けてくれ」 「解放して……」 「わたしの……返して……」 返せェ、返せェという声がかさなりあい、やがて津波のように襲いくる。 そして、そのむこうのどこか深遠に赤い色が見えた。 ゆっくりと近づいてくる。     
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