五章

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少しのあいだ、ぼんやりしていると、林のなかから近づいてくる者がある。 まさか、この林に巣食う霊だろうか? 警戒するものの、生きた人間だった。 圭介だ。よく会う。この付近を捜査しているのだから、当然といえば当然か。 「また、会いましたね。雅人は?」 聞かれて、愛莉はうしろをふりかえった。が、雅人がいない。ついさっきまで、いっしょにいたのに……。 (もしかして、雅人くん、滝川さんをさけてるの?) そう考えれば、いつもすぐいなくなることの説明がつく。そして、雅人が圭介をさけているのだとすれば、その理由は、おそらく、圭介が刑事だからーー (二年前に行方不明になったとき、何かあったの? 警察には言えないようなことが?) あるいは、そのことが、あの大量の死体に関連しているのだろうか? そんなはずはない。 雅人は人を殺すような人物ではない。 そのことについて疑いは持たないが、でも、深い事情がありそうな気はした。 「雅人くんは、さっき帰りました」と、ウソをついた。 「そうですか。ところで、ここで何をしていたんですか?」 不審そうな顔をされたので、愛莉は打ちあけた。 「じつは、わたし、ここで遺体が見つかった、平野勇蔵の孫です。祖父の事件のことについて調べているんです」 「そうでしたか」     
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