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黄色っぽい、くすんだ照明が乱雑な物置の内部をてらした。
その人は、真正面に立っていた。
身をかくす場所を探していたようだが、明かりがついた瞬間に、ため息をついた。
愛莉は、めまいをおぼえた。
そこにいるのが誰なのか、わかりさえすれば、何もかも合点がいくと思っていた。事件の真相が、ひとめでわかるだろうと。
でも、これは、いったい、ナニ?
真相が、さらに遠くなる。真相どころか、常識が、どこか、つかみどころのない、あやふやな世界に溶けていく。
「なん……で? なんなの? コレ? なんで、ここに……」
愛莉は泣きたいような笑いたいような、変な気持ちにおそわれながら、その人に問いかけた。
「なんで、おじいちゃんが、ここにいるの?」
そんなバカなことがあるはずはない。
だって、愛莉は祖父の葬式に出たし、ちゃんと棺おけのなかの遺体も見た。
胸を刺されて死んでいたわりに、祖父はとても安らかな顔で亡くなっていた。
それなのに、なぜ今、目の前に生きた祖父が立っているのか?
しかも、そこにいるのは晩年の祖父じゃない。
愛莉が、まだ幼かったころの祖父だ。年齢的に言えば、五十代の祖父。
祖父であることだけは、まちがいない。
でも、祖父はもう八十になっていたはず……。
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