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「平家のお姫さまが戦にやぶれて落ちのびてきたんでしょ? でも、追手に見つかって従者のお侍さんに死なせてもらった」
「うん。そうだ。神社の縁起にもある話だね。でも、その話には後日談があるんだよ」
「後日談?」
「そこからさきを知っとるのは、ここが村だったころから、この土地に住んでいた者だけだ。代々、親から子へ、口伝で伝えとったからね。よその土地のもんには、絶対にもらしちゃならん秘密だった」
死んだはずなのに、三十さいも若返って生きていた祖父から語られる伝説。
愛莉はその状況の異様さに緊張しながら、祖父の次の言葉を待った。
「空蝉姫さまは縁起では、従者に殺され、神社に祀られた。だが、じつは、そのあとすぐ、生き返ったんだ」
「生き返った?」
仮死状態だったということだろうか?
医学の発達していなかった当時なら、そんなこともあるかもしれないと、愛莉は考えた。
だが、祖父の話は、そうではなかった。
「空蝉姫さまが亡くなってまもなく、村の娘が急な病で死んだ。
家の者たちが娘の死にめを看取っていたんだが、そのとき、青く光る蝉が、死んだ娘の体に入るところを見た。
すると、息をひきとったばかりの死体が急に起きあがり、『わたしは空蝉姫です』と言ったそうだ。
青い蝉は、空蝉姫の魂魄だったんだな」
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