六章

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涙があふれだすのを、愛莉は止められなかった。 ずっと、おまえを見守っているよと言った父。 あれは、そういう意味だったのか。 父の愛の深さを、愛莉は実感した。 「お父さん。おじいちゃん……ありがとう」 涙が止まるまで泣き続けた。 しばらくして、祖父が言った。 「ほんとは俊一として生きていくつもりだったんだ。じいちゃんの死体が見つからなければ、行方不明になるのは、じいちゃんのはずだった。こんなことになって、愛莉に心配をかけてしまって、すまなかったね」 「それは、しかたないよ。誰も悪くないよ。でも、おばあちゃんが、おじいちゃんをお父さんだと思ってるのは、なんでなの?」 「移し身が起こると、村の人間には、その人がもともと誰だったのかわかるんだ。その人のもとの姿で見えるからだ。だから、蝉じいさんが滝川に殺されたことも、すぐにわかった。 でも、よその土地の人には、なぜか、移し身が起こる前の人物の姿に……つまり、被害者を殺した人に見えるらしい。見えるというか、記憶のなかの姿が入れかわるようなんだ。 だから、ばあちゃんには、わしの今の姿が俊一のように思えるんだ。たぶん、空蝉姫の霊力のおかげなんだろう」 「そうなんだ」     
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