六章

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祖母の作ってくれた肉じゃがを食べながら、見るともなく見ていた。 アナウンサーは最後のしめくくりとして、こんなことを言った。 「この十九さいの学生は先日、今の両親と養子縁組みしたばかりで、念願の国立大学へ通っていました。このような悲しい犠牲がいつまで続くのでしょうか。早急な原因究明が望まれます」 養子になって大学進学ーーということは、おそらくお金持ちにひきとられたのだろう。学力の高さを買われたのかもしれない。 人生が好転しかけたところで病気で死んでしまうなんて、なんて不幸だろうか。 「ごちそうさま。わたし、お風呂入るね」 「はいはい」 自分の使った食器を台所まで運び、水につけておく。 そのあと、着替えをとりに、愛莉は二階へむかった。 階段を数段あがったとき、違和感を感じた。 階段は上部がゆるいカーブになっていて、ぜんたいを見渡しにくい。カーブのさきから、何か液体のようなものが流れてくる。 (えっ? 雨もり?) 二階には水まわりがない。トイレも浴室もキッチンも、全部一階に集中している。雨もりでもなければ、大量の水が流れてくるような場所はないのだ。 でも、ここ数日、ずっと雨は降っていなかった。 黒っぽい液体は、ゆっくりとした速度で、段々畑の散水のように階段を伝わり落ちてくる。     
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