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祖母の家に帰ったあと、愛莉は二階へあがり、考えこんだ。
愛莉を知らない杏。
杏ではない顔をした杏。
その杏を、実の母親が杏だと認めているようだ。
(なぜ……?)
答えは一つだ。
移し身ーー
杏は何者かによって肉体をうばわれた。
そのことを、杏は訴えに来たのだ。
愛莉と会ったときには、もとのままの杏だった。
つまり、あのあとすぐに、杏の身に変化が起こった。
あのとき、杏はこのあとデートだと言っていなかったか? だとしたら、怪しいのは、あのリムジンの彼だ。
(すうくんって言ってなかった? すうくん……)
愛莉は思いだした。
どこかで聞きおぼえがあると思った、そのニックネーム。
あのお祭りだ。神社のお祭りで、みんなと遊んだ夏の夜。ほとんどが小学生だったなかで、一人だけ中学生の男の子がいた。みんなのめんどうを見ていた、あの男の子が、すうくんと呼ばれていた。
地元の子だった。
つまり、空蝉姫の伝説を知っている。
若いのに風態にふさわしくない高級車を乗りまわしていた男。事業で大成功したんだと、杏が話していた。
彼に会った直後に、移し身が起こった杏。
考えるうちに、愛莉は動悸が激しくなり、息苦しくなった。
これは考えすぎだろうか?
でも、きっと、そういうことなのだ。
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