六章

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* 祖母の家に帰ったあと、愛莉は二階へあがり、考えこんだ。 愛莉を知らない杏。 杏ではない顔をした杏。 その杏を、実の母親が杏だと認めているようだ。 (なぜ……?) 答えは一つだ。 移し身ーー 杏は何者かによって肉体をうばわれた。 そのことを、杏は訴えに来たのだ。 愛莉と会ったときには、もとのままの杏だった。 つまり、あのあとすぐに、杏の身に変化が起こった。 あのとき、杏はこのあとデートだと言っていなかったか? だとしたら、怪しいのは、あのリムジンの彼だ。 (すうくんって言ってなかった? すうくん……) 愛莉は思いだした。 どこかで聞きおぼえがあると思った、そのニックネーム。 あのお祭りだ。神社のお祭りで、みんなと遊んだ夏の夜。ほとんどが小学生だったなかで、一人だけ中学生の男の子がいた。みんなのめんどうを見ていた、あの男の子が、すうくんと呼ばれていた。 地元の子だった。 つまり、空蝉姫の伝説を知っている。 若いのに風態にふさわしくない高級車を乗りまわしていた男。事業で大成功したんだと、杏が話していた。 彼に会った直後に、移し身が起こった杏。 考えるうちに、愛莉は動悸が激しくなり、息苦しくなった。 これは考えすぎだろうか? でも、きっと、そういうことなのだ。
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