七章

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「ーーというわけで、杏ちゃんは誰かに体をとられてしまったみたいです。それで考えたんですが、移し身って、悪用することができるんじゃないですか?」 しばらく、だまりこんだのち、圭介は口をひらいた。 「じゃあ、あなたも、そう思うわけですね?」 「はい。父は自分の余命を知り、寿命を祖父にゆずった。でも、それは父も祖父も空蝉姫の伝説のことを知っていたから、できたわけですよね。 もしも、この町で生まれたけど、伝説のことを知らないという人が、人を殺してしまったとします。殺人事件を隠ぺいするために、あの神社のある林のなかに、その死体を埋めたら……あるいは、その人とは別の人が死体を埋めたら、移し身が起こってしまうんじゃないですか?」 圭介は感慨深そうな顔つきでうなずいた。 「私の以前の名前は、櫻井治(さくらいおさむ)です。私を殺した滝川圭介は、この町の住人だったが、伝説のことは知らなかったんだろう。 ある夜、強盗に入ってきて、私を殺し、あの林に死体を埋めた。 そして、私が埋められるところを目撃した雅人が、伝説のことは知らなかったが、蝉のぬけがらをその場所に埋めてくれたんだ。 だから、私は滝川圭介として、よみがえった。まったくのぐうぜんだった。ぐうぜんのかさなりあいでも、条件さえ満たせば、移し身は起こる」 「やっぱり、そうなんですね」     
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