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プロローグ
毎年、夏休みになると、雅人は祖父母の家に泊まりに行く。
雅人が両親と暮らす家と同じ市内にあるのだが、祖父母の家は山のふもとにあるぶん、自然が豊かなのだ。毎日、虫かごと虫とり網を持って、林のなかを歩きまわった。
林のなかに神社があった。
古びた小さな社だが、とてもご利益があるのだそうだ。
どんな神さまが祀られているのか、子どもの雅人にはわからなかった。
神社の近くは昼でも薄暗くて、なんとなく気味が悪いので、なるべく近よらないようにしていた。
木洩れ日が金色にさす昼間。
小川に蛍の光が妖しく舞う夕刻。
でも、雅人がもっとも夢中になったのは早朝だ。
真っ赤な朝焼けが東の空の端を染めるころ、神社の林のなかへ入っていくと、たくさんの昆虫がとれた。
クワガタやカブトムシ。
セミやカミキリムシ。
大きな目玉のもようのある蛾なども。
あれは、何度めかの早朝のことだ。
ある朝、雅人は神社の近くで変な音を聞いた。
ザッ、ザッ、ザッと土をほるような音だ。
早朝のまだ暗いうちだから、もちろん一人ではない。
祖父にたのんで、いっしょに来てもらっていた。
しかし、元気に走りまわる雅人は、いつのまにか、祖父から、かなり離れてしまっていた。
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