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それは高校生活が始まって間もない朝のこと。教室の入口でわたしは足止めた。
隣の席の久住君を挟み込むようなかたちで、嶋野君と戸田さんが楽しそうにおしゃべりしている。
クラスでもひときわ目立つあの三人のなかにどうやったら割って入ることができるのか……どう考えても答がない。
「なぁ、理人の髪色ってなんなの? 違和感しかねーんだけど」
「そう? あたし黒髪好きだけどな。まぁ茶髪も見てみたいけど」
「いやこいつ中学んときは茶髪ってかさぁ」
テンション高めな話し声はほとんどが嶋野君と戸田さんのもので、当の久住君はといえば机につっぷして「うるさい」「だるい」といくつか呟いただけでほとんど相手にしていなかった。
「今カノが黒髪好みとか?」
「…………」
嶋野君に髪を触られても完全無視を決め込んでいる。
「否定しないってことは、イエスってことだな?」
煽られても無反応。
「えー、久住彼女いんの?」
戸田さんが甘い声でゆすってもまったく動じない。
「寝かしてくれないエロい年上彼女ができたんじゃね? 毎日ダッシュ下校なのは告られんの避けてるとか……束縛強めな女だと予想!」
「テキトーなことばっか言うなバカ! ねぇ 久住そーだよね?」
このやりとりはいったいいつまで続くんだろうか。教室の入り口付近でずっと待機しているわたしは、すでにクラスメートたちに不審がられている。
教室に入っていくみんなの邪魔にならないよう半身をかわし誰とも視線があわないよう下をむく。
早くチャイムが鳴ればいいのに。
時間を確認しようと顔を上げたら、とろんとした表情の久住君とおもいきり目が合ってしまった。
気まずくてあわてて下を向いたけどたぶん回避できなかったと思う。
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