1 つぼみ

31/34
前へ
/256ページ
次へ
千絵梨とは友達みたいに仲の良い姉妹だったのに、それがもう遠い昔のことみたいだ。 どんなくだらない話でも、いつも楽しそうに聞いてくれた。もちろん、倉持君のことだって。 彼と目があったこと。 おはようって返してくれたこと。 理科の実験のとき、同じ班だった彼の手にうっかり触れてしまったこと。 すべてが秘密で、宝物だった。 どんな些細なことも千絵梨と分かちあえているつもりだったのに、いつ頃からかふたりが付き合っているって噂が流れ出した。 そのときは姉に嫌われているともうわかっていたけれど、そんな噂を信じようとはしなかった。 いや、きっと目を背けていただけなんだ。 その証拠に、うやむやな気持ちはずっと胸にくすぶっていた。
/256ページ

最初のコメントを投稿しよう!

260人が本棚に入れています
本棚に追加