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反対側のホームの看板のなかから
キレイな女優さんが旅に出ようと、誘っている。
なんてまぶしい笑顔なんだろう。
じっと見入っていると、だんだんそれがお母さんのようにも、千絵梨のようにも見えてきて、目頭がぶわっと熱くなった。
あっち側のふたりに近づきたい。
触れていいのなら触れたい。
言葉にならないこのへんてこな気持ちでも、伝えなければもう一生ふたりに会えないような気がしてくる。
行かないと。
勇気を出して最初の一歩足を踏み出したとき、突然視界が塞がれ足は止まってしまった。
どこか遠いところで、悲鳴があがるのを聞いた。
とたんに何かに弾き返され、思い切りよろけてしまった。そこには大きなおっぱいがあって、視界いっぱいに鮮やかなグリーンが広がった。
目線をあげると、緑のカーディガンを羽織った若い女の人がやさしい顔でこっちを見つめていた。
次の瞬間。
突然、吹きあげるような強い風が吹いた。
彼女の後ろを快速電車が通過するところで、わたしと彼女はただその風に無言で煽られるばかりだった。
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