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「ごめんね。最近携帯なくしたばっかりで」
揃えた靴の爪先に視線を落としたまま、みどりさんは困ったように微笑んで、それからふと思い出したように、何かをポケットから取り出した。
「ね、代わりにこれ預けてもいい?」
その言葉の意味がわからないまま、彼女の手のなかのくしゃくしゃのものを曖昧に受け取ってしまった。
「なんですか?これ」
「これはね、さっき旦那さんからむしり取ったものなの。あたしより本に夢中だったから頭にきてケンカしちゃった!」
「えっ?」
悪びれずに明るく笑うみどりさんを見ていたら、うすっぺらい胸がきゅんとせつない音をたてた。
旦那さんに振りむいてほしかったのかな、振りむかせたかったのかな。
後先考えずにそのページを破ってしまう衝動さえ、すべてが彼女に相応しいような気がした。
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